glafit X-scooter LOM

なにそれ


 いわゆる電動キックボードってやつですね.

 最初に Kickstarterで公開された時は 2020/2/17に支援して 50番代くらいだったのに 2020/3/13にプロジェクトキャンセル.GFR-01と同じような「有名クラウドファンディングサイトで大ヒット」という2匹目のドジョウを狙ったが,立ち上がりが悪かったのでやーめた,だろう.まぁ海外スペックではないのは確かだ.

 そして日本スペックでは海外では売れないと気が付いたのか,しれっとMakuakeで再開したのが 2020/5/28,自分が応援購入したのが 2020/05/29.すでに 1000番台になってしまっていた.明らかに日本人な Kickstarterの支援者に営業かけないのか?とか,プロモ動画が「あれココ渋谷のあそこだよね?一方通行の逆走じゃね?」というシーンがあったり(そして ■トップの動画は私有地にて撮影しております。 と誤魔化している.私有地も含まれるだろうけどあそこは公道だし,許可をもらって逆走したのだろうか?そうならその旨書けば良いのに)で残念な会社だなぁ,と思ったものだが,現状サポートの悪さで炎上しているので当時の印象は間違っていなかったようだ.

 まぁサポートの悪さと言っても,基礎設計の見直しと(コロナ禍とはいえの)生産の見通しの甘さから遅延に遅延を重ねた結果,組立調整検査出荷の方にてんてこまい,というのが実情の大半だろうし,CFなんてそんなもんだ.あの規模でやって半年遅れで済んでよくやったね,とすら思う.まぁ説明する気が全くない,というのが問題の本質だろうけど.

 やっと届いて初走行をしたのが昨日の 2021/7/10.すでにガジェットライター系のレビューはあるようだが,もう少し技術的に踏み込んで感想を書いてみよう.

 

で,どうなの


 モノそのものについては一般市販価格 15万円くらいのクォリティは十分達成できていると思う.狙った数が売れるかどうかは別として,もっと高くてもアリだと思うくらいだ.安っぽいのは後述のミラーくらいで,防水基準なしの車両としては及第点.パワーも十分で,満充電状態であればちゃんとリミッター速度(後輪を持ち上げてフルスロットルにした場合に表示された速度)まで程よいレスポンスで到達する(自分の体重は軽めだが).サスペンションの類がないため地面の凹凸をダイレクトに拾うことを考えると,よっぽど整備された道路でない限りそこまで速度を出すこともない.都内の国道・都道クラスを走るのは路線を選ぶが,自転車通行が考慮された車道であれば特に問題ないと感じた.「自転車屋がブレーキがペラいとか言ってましたよ」的な書き込みをどこかでみたが,自転車とはタイヤ半径が全然違うんだからアレで十分.その自転車屋の見識を疑った方がいい.ちなみに普通にロックできる制動力で,ちゃんと体重移動ができればテールスライドドリフトだってできる.また重量20kg は(成人男性による)持ち運びを考えたらギリギリ許容できるレベル,を上手く達成している.実際のところ,例えばバイク不可の賃貸の2Fに住んでいて毎日部屋に上げる,とかだと気が重くなるだろうが不可能ではない.

 ただまぁ組み立ての精度が若干悪くて「『街の自転車屋さん』が組んだ自転車は一旦バラして組み直す」派の人は組み直すだろうなぁ,というレベルで,「バイクのディーラー新車」にはとても達していなかった.細かいことを言えば,フロントのフェンダー保持兼ブレーキキャリパーガードの部品の精度が悪く(おそらくキャリパーと反対側の曲げ精度が出ていない),フェンダーとフロントタイヤとのクリアランスがマイナスなのはご愛嬌…と言って良いのだろうか.なんか変な音がすると思ったんだよ(出荷検査時に気づかないのはどうかと思う).ということで軽く組み直したりもした.折りたたみの機構も頑張った感はあるが,固定用のレバーに(取り回しが練られていない)ワイヤーが引っかかったりコントローラーがぶつかったりする.まぁコレも「降り畳みできる」というだけで毎回やるものでもないので瑣末な問題か.

 しかし何より問題なのはミラーだろう.直径 12mmのプラヘッドのネジ(!)で調整させる箇所があり,無意識に(別の箇所を)調整してしまうとソコの固定が回ってしまい,プラ製の部品が削れていく&固定力が下がる.調整する「別の箇所」はプラ部品同士のボールヘッドで,締結のヘックスは締めすぎたら保持部が割れるかもな,という構造.そして走行中に風に押されて明後日の方向を向く.小径軽量なだけあって直進操安性は悪く,走行中に片手を離してミラーの調整は困難で,そもそも調整したところでどんどんずれていくので「偶然後ろが見えた貴方はラッキー」というお守りアイテムになっている.まぁ原付のバックミラーなんて飾りですよと言う人もいるかもしれないが,バイク乗りの観点からはあり得ないレベルだと感じるし,そもそも車両特性上後ろからくる車に神経質にならざるを得ないので,これは交換が必要と思っている.「折りたたみ性」を優先した結果,法律上の建前を確保するための飾りにしかなっていないのは残念.

 

アプリ対応


 組み立てやミラーはまだいい(よくない).なぜなら自分でなんとかできるからだ.今の自分にとって,もっと残念なのはアプリだ.ちなみに電源断問題が起こっている人もいるらしいから,それよりはマシだと思うけど.

 うぇーい,アプリから On/Offできるぜー物理キー要らないぜーと思ってアプリから起動して外出したら,見事にその帰り道から一切アプリ(BT接続)が繋がらなくなった.もちろん上述の時点でメーカーを信用していないので,物理キーも持ってたから事無きを得ているが.しかもアプリ上バッテリー残量が 3000000%と表示されている.私のバッテリー残量は 300万%です.ちなみに通常サイズのバッテリー 100%で理想値 40km現実 25〜30kmくらい(?)走れるので理屈の上では地球を 20周はできそうだ.すごい.別の端末からログインして登録情報を呼び出してもその数値なので,メーカーのサーバ内で 300万%が保持されているのだろう.保持する意味が全くわからないけど,複数人使用時のためにラスト値を保持しているのだろうか.

 そう,アプリを使えば(物理キーなしで)人に貸し出せます,という機能もあることになっているけど,コレ所有者と同じアカウントでログインしないと実現できてなくない?アカウントなしではアプリ開けないし,新しくアカウント作っても当然当該車両はペアリング済みとかで登録できないし.と思ったら iOSには実装されていなくて,Androidには実装されているのね.存在するアカウント(のメールアドレス)を指定すれば権限を渡せる,けれども与えた権限を奪う機能が動かない.惜しい.あと受け側は受け側で権限を受け取った件の説明メールとかも全くなく,突然使える車両が増える.怖い.で,その端末から繋げようとしても同じエラー.おそらくアプリ接続パスワードが適切ではないからだ.おそらくこの辺りの車両側の機能でバグがあって接続できなくなっていると思われる.「接続に失敗しました」というのがどのレイヤなのか全くわからないので確証はないが,新規の別端末でもダメということはそういうことだろう.ちなみに物理キーと物理ボタンを使ってアプリ接続パスワードを初期化する機能というのもあるようだが,インジゲーターがないので効いているんだか効いてないんだか全くわからないあたりも設計に問題がある.ヘッドライトでもウインカーでも点滅させればよいだけの話だろうに.

 ホントはアプリに対する苦情というか要求は「ホーム画面上のアイコンワンタップでロック・ロック解除できるようなショートカットが欲しいよね」とかそういうレベル(それだって最低限のレベルだと思うが)の会話がしたいものだが,現状何一つ使い道のない素敵なアプリなので語ることはもうない.

 

とはいえ


 ここで話が終わっては面白くないので,どうせ BT-LEだろうと思ってスニファをかけてみた.予想通り,GLFT-XXXXXというDevice Nameが引けた.ディスクリプタは 3つの Writeと 1つの Read,1つの ReadNotifyがアドバタイズされている.

 電源Onを担うためにちゃんとバッテリー通電直後から動き始めているっぽい.ということでデータリンク層ではちゃんと通信ができていて,しかし「パスワードが違う」という理由でアクセスが不能になっているのだろう.で,コレまた推測だがアプリ接続パスワードを初期化する機能に問題があって,デフォルト値に戻すことができていない.ところが「物理スイッチの配線が切れている」から始まり「ソフトのバグ」とか「そもそも初期化方法の説明が間違っている(実装と説明が異なっている)」まで可能性が多岐にわたるため,正直ユーザー側が調査してどうにかなるとは思えない.この初期化が通信側からも開いているとするならば適切な Writeディスクリプタにマスターパスワード的なものを使って叩くパスがある可能性があるが,ユーザー環境で通信側から解除させる手段を提供するとは思えないのでメーカー返送しないと治らない系な気がしてきた.ワンチャン譲渡した時のプロセスを踏めば良い可能性もある(旧オーナーが予め(明示されていない)初期パスワードに戻すとは思えない & 新オーナーがアプリ使えないはもっとあり得ない)が,メーカーの想定外のバグだとしたら心を閉ざしたままになる可能性もある.ちなみに「※ご自身でのパスワード変更に伴う不具合に関しては、弊社では対応できかねます。」ともあるので,自社のバグをしれっとユーザー責にする可能性も否定できない.まぁ少なくともパスワード初期化ができないのは説明とは異なるので,現時点では初期不良対応の範囲内と思われる.あー,その機能を説明書から削除した上で「新ユーザーにパスワードを教えてあげてください」という説明が後から追加される可能性もあるな.そのくらいはやりかねない.この節何もかもが推測だけど.

 ちなみに他にもアプリ接続ができなくなったユーザーがたくさんいるみたいだが,サポートは基本なしのつぶてだそうだ.というか表向きのサポートがFAQを紹介するアホなボットしかないのもどうにかしてほしい(その先にメールにつながるパスはあるが).まぁどうにかしたらしたでリテラシーのない人間が殺到するのでやりたくないんだろう.

 

その他にも


 odメーターは機能するが,tripメーターが「Onしている間の距離」であることには恐れ入る.買い物に行って停めて Offしたら,今日の走行距離を忘れる.どのくらい走ったからどのくらい寄り道してもいいか,とかは充電満了時の odメータの数値を覚えておいて自分で考えるしかない.もちろんバッテリーを抜かれると保持できない系の問題があるんだろうけど,そんなの odと一緒の領域に書いておけば良いだけじゃね?Flashの擦り切れ問題とかを気にしているレベル(それだって最低限のレベルだと思うが)の技術力とは思えないし.

 あと気になったのはブレーキとブレーキランプの関係かなー 普通はブレーキには操作量に対して効き始めるまでの「あそび」があって,しかしランプはその「あそび」の段階から点く設計が多いのだが(ランプの意図を考えれば必然的にそうなる),この車両は明らかにブレーキがかかった状態でないとランプが点灯しない.ゆっくり減速している場合はエンブレ(状態)なのかブレーキをかけているのか傍目には分からない.コレ追突事故を起こした場合に,後方車両のドラレコ映像的には印象が悪い結果を残すことになる.事前に減速していないように見えたり,ブレーキをかけるのが遅く見えたりするからだ.まぁそんなことまで考えているメーカーとも思えないが.

 そして最後になったけどバッテリー電源断問題.自分のところではまだ起こっていないが,コレはおそらく回生電力を適切に処理できていないが故のバッテリー側の保護機構が働いているものと考えている.なので,傾向として使用者の体重が重く,エンブレ(状態)を多用し,坂道を下る方向であるほど起きやすい,とかではないだろうか.運動エネルギーとして蓄積され,エンブレ(状態)で発生する回生電力は熱として逃すか,バッテリーに流し込むか,になる.どこかで見た文面の限りでは回生電力を(適切に)回収しているとも思えず,かといってそれっぽいラジエターがあるわけでもないので適当にバッテリーにぶち込まれているだけ,そして皮肉にも格安中華電動キックボードとは異なりバッテリー側の保護機構がしっかりしているが故に過剰な電力流入を許さず,シャットダウンになるというシナリオ.ただコレ基礎設計レベルの問題なので対処は難しいんじゃないかなぁ… ということで体重に関して心当たりがある人は「痩せろ」ということになるのだろうか.

21.6km/h = 6m/s で体重 80kgとして車両込みで 100kgとすると 1800J,回生抵抗が不明だけど,コレを エンブレ(状態)で 10秒で止まるとしたら 180Wを消費しなくてはならない.チャージャーからの最大流入量は 165w程度なので,許容限界はこの辺りか.んー,思ったよりは数字にインパクトがないが,まぁ起こり得るオーダーだということはわかる.体重よりも「ちゃんとブレーキを使う」「徐々にスロットルを抜いていく」という操作の方が重要なのかもしれない.

 

現時点での総論


 「コレはひどい(笑」

 とはいえ笑ってなんとかする人向けのアイテムなんだろう.先進的なところが軒並みダメで建前上の安全性に問題がありしかもサポートが怪しいならドンキの中華製の方がマシだ,と思う人もいる(というか大半)かもしれないが,今後起こりうるメーカー相手の対応も含めて「イベントを購入した」ものだということですよ.あとデザインは好きです(取ってつけ).