glafit X-scooter LOM (3)

オモチャとしては楽しい


 Makuakeの活動レポートに対するコメント掲示板では数ヶ月前から報告されている電源遮断問題(以下シャットダウン)だが,さいわいにして自分のところでは起こっていない.まぁ最近忙しい&天気悪くて休日に外出できていないからかもしれないけれど.

 LOMのモーターの定格は 48V 350w,標準バッテリーの定格は 48V 441Whとなっている.このバッテリーは中国メーカーの製品で,重さから推定するにどうやら 18650が 39本入った 3パラの 13セル品のようだ.18650単品では計算上 3.0Ahとなり,モーターの定格上限まで回しても 0.8C程度に抑えられているので選定としては問題ない. 問題なのはおそらく,適切な電子負荷が設定されていないことだ.

 

パワートレイン考察


 電子負荷で熱として放散できない場合,電流が流れない=電圧が上昇するというステップを踏み,(あるならレギュレータを突破して)バッテリーに流れ込み始めることになる.コレを検知してOVP(Over Voltage Protection)が発動し,実バッテリーの電極とバッテリー出力端子が切断されるとシャットダウンになる.GFR-1/GFR-2は LOMと比較してタイヤ径が大きい=同じ速度での回転数が少なくなる&モーター定格が小さい=発生回生エネルギーが小さいので問題が発露しなかったのだろう.可能性としては低い気はするが,バッテリーの温度が上昇し過ぎていて同様に OTP(Over Temperature Protection)が働いてシャットダウンに至った,ということもあるかもしれない.

 というか,そもそも,だ.このパワートレインは glafit社が開発したものではない.社長や広報を含めてたかだか 15人ほどの会社で開発できるようなものではないのだ.具体的なメーカー名は伏せるが,AliExpressを探せば山のようにある電動自転車用のパーツを選定して組み込んだに過ぎず,MCU(Motor Control Unit)にパラメータを設定したのが唯一の「オリジナリティ」だ.それにしたって「システム電圧を 36V / 48V / 52Vから選ぶ」「最高速度を設定する」「加速度調整パラメータを設定する」とかその程度のものである.メーカーから隠しパラメータくらいは教えてもらっているとは思うが,ちょっとググって出てくる設定項目が LOMでも同様にいじれる以上 glafitオリジナルなシステムなわけがない(そんなOSSも寡聞にして知らない).回生エネルギーを電子負荷で消費できないのも前提であり,その分は逆流しうるけど勘弁な,という設計思想のシステムをそのまま使っているだけだ(同様に Tripメータ値が電源Offで失われるのも glafitが意図したものではなく,元からそういうものだった).

 しかしながら「回生電力を処理せずバッテリーにぶち込む」を前提にしたシステムが多用された結果,中国でパーソナルモビリティの爆発事故が起きているのもまた事実である.OVP/OTP/OCPの類が発動すると面倒なので全部無効化してあるとシャットダウンは起きなくなるが,バッテリー間のバランスが狂うと過充電・過放電のセルができて水素ガスが発生し,圧力に耐えられなくなった時点で爆発する.LOMのバッテリーは 18650で金属円筒缶電池なため比較的安全性は高いと思われるが,プロテクションはしっかり有効にしておくに越したことはない.そこは企業としての良心だったのかもしれないが,その場合は特定条件下でバッテリーがシャットダウンしてしまうことを避けられない.ではしっかり回生エネルギーを消費/回収するシステムに変更できるか?というと,少なくとも同等のコストでは存在しないことは明らかだ.

 パワートレインメーカーとしてはシャットダウンについては「知ったこっちゃない」だろう.MCU自体には充電管理機能はなく,電源として 48Vをもらっているだけで「逆流する可能性がありますよ」は採用メーカーである glafitがなんとかすべきものだ.同様にバッテリーメーカーとしても「シャットダウン条件を満たすとシャットダウンします」としか言いようがない.そしてプロテクションを切った場合の安全責任はバッテリーメーカーにはない.そしてよくわかっていない glafitは両者を直結してしまった.逆流防止と熱放散を考慮することなく.  

じゃぁどうすんの


 率直に言って,glafit的には詰んでいる.パワートレインに手を入れる技術力はそもそもないし,MCUの再選定&全数交換を行う体力も多分ない.Makuakeの約款上はブツを届けさえすればミッションコンプリートになるため,ひたすら出荷を続けることになるだろう.そもそも「発生しなければ問題ではない」という姿勢を貫くことも目に見えている.発生した場合はおそらく唯一実現の可能性がある回避策として,バッテリー側のプロテクションパラメータを調整することになるだろう.「どう直したか」を一般ユーザーが検証することは不可能で,そして爆発しなければ問題ではないのである.しかし,スマホアプリがあの惨状ではユーザー環境で BMCに接続してパラメータを書き換えるなんて(glafitも)怖くてできないので郵送回収になるだろうが.

 最後にどうでもいい話.あのスマホアプリとか BT周りは「glafitオリジナル」と言って良いと思うのだが,アレも「外注に失敗」の類なんだろうなぁ….